「白猫と聴覚障害」
真っ白な猫ってとても神秘的で美しいですよね。でも、白い猫が聴覚障害を持っている可能性があることはよく知られています。ノルウェージャンFCも例外ではありません。どうして白い猫に限ってそのような障害が起こり得るのでしょうか?それは遺伝学的な問題が関係しています。白い毛を作る遺伝子には「S」と「W」があります。部分的に白の斑を作る「S」と違って、「W」は全ての毛色を覆い隠して全身真っ白にしてしまいます。この「W」が何割かの確率で聴覚障害及び青い目を作り出すと言われています。「W」は蝸牛(音を神経細胞に電流として伝える耳の器官の一つ)の中にある有毛細胞の発生を妨げます。有毛細胞がきちんと機能しないと聴覚障害が起ります。 遺伝子は2つの組み合わせで対になっています。白の遺伝子も大きい「W」と小さい「w」があります。「WW」と「Ww」と「ww」です。聴覚障害を引き起こすのは大きい方の「W」ですが、この大きい「W」は小さい「w」に対して優勢です。なので遺伝型が「WW」か「Ww」であれば聴覚障害は起こりえます。また、「W」は他の全ての毛色の遺伝子に対して上位にあるので、この大きい「W」が一つでもあれば、その猫は他の毛色全てを隠して全身真っ白になります。他の毛色が現れるためには遺伝型が小さい「ww」である必要があります。 では、実際に耳の聞こえない猫との暮らしとはどのようなものなのでしょうか。私の経験を少しお話します…。
雪のように真っ白ないちごが窓際に座って外を眺めています。「いちご」と呼びかけても振り向いてくれません。白猫のいちごは耳が聞こえません。少し寂しい気もしましたが、でも猫に対し犬のように名前を呼んだらシッポを振って駆け寄って来るのを期待するのもどうかなぁ〜と思い、いちごはそれでいい、と思うことにしました。 呼んでダメならおもちゃ作戦です。猫じゃらしをいちごの視界にちらつかせると、すっとんで来ました。釣られて他の猫達もやって来て皆で遊びます。こうしていると、いちごも皆となんら変わりなく見えます。 お掃除の時間です。掃除機を持って来ると猫達は、嫌な奴が来た!って顔をして一目散に散らばって行きます。でもいちごは、ちょこんと床に座ったままです。掃除機をかけ始めると、動くノズルに反応していちごがじゃれ付いて来ます。 ある日、いちごをお風呂に入れました。当然ほとんどの猫はお風呂が大嫌いです。他の子はシャワーのザーッ!という音にビクビクします。でもいちごは聞こえないのでその分ストレスが少ないようです。さて、お次はドライヤーです。他の子はドライヤーの騒音に震え上がり、大暴れします。でもいちごは知らん顔でせっせと毛づくろいを始めます。これ程ドライヤーの楽な猫は初めてでした。。。 おやつの時間です。皆ニャーニャー鳴いて缶詰をせがみます。その中で精一杯大きな声でニャーーーッ!と鳴く子がいます。いちごです。自分の声が聞こえないので、声が大きくなるんですね?普段はあまり鳴かないので、この時ばかりの一生懸命な声はとてもいじらしいです。 耳が聞こえない分いちごは目や他の器官で情報を得ています。聴覚以外の器官はむしろ他の子よりも敏感です。床の振動で人が近付いてくることを察します。他の猫の行動を見て周りで何が起きているのかを理解します。いちごは私の目をじーっと見つめます。アイコンタクトです。か、可愛い…もう私のハートを鷲掴みです(笑)。 いちごはとてもユニークで魅力的な子です。 猫には当然のことながら一匹一匹個性があります。耳が聞こえない事自体は障害ではありますが、その子への接し方やその子の取る行動も一つの「個性」と思えば、それが「障害」だなんていうことは忘れてしまう程に気になりません。人それぞれの考え方や意見はあるかと思いますが、私が耳の聞こえない猫と生活していて感じたことは、メリット(ドライヤーの時など)こそあれ、ディメリットだと思うところを感じたことはありません。ノラ猫であれば車の音が聞こえなかったり、周囲は危険だらけで心配ですが、完全室内飼いの子であればそのようなこともありません。 もし白い猫の魅力に引き寄せられ、その子を飼いたいと思った時に、耳が聞こえないからといって諦めるのはもったいない気がします。早急に結論を出さずに、まずはその子と触れ合ってみてください。耳の聞こえない猫を飼うにあたって、私の乏しい知識と経験が少しでもお役に立てれば幸いです。(…もちろん全ての白い猫に聴覚障害があるとは限りません。) ノルウェージャンのブリーダーとして、また白い猫をブリードに使って行くにあたって、まだまだ勉強不足で学ぶことは沢山あります。これからも引き続き勉強して知識と経験を積み重ねて行きたいと思っています。皆様のご意見や助言等ありましたらメールを頂けるとうれしいです。 *キャテリーNORDLY'S & MYTH-VISIONの白いNFCについてのレポートも合わせてお読み下さい☆ 参考文献:
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豆知識
「猫の耳」 猫はどのように音を聞くのでしょうか?音は振動により空気中に波を作ります。この波長を猫のイヤーカップ(三角の耳)がキャッチし、鼓膜を通って耳の奥深くの蝸牛殻まで届けます。蝸牛殻は神経細胞を通して信号を脳に伝え、猫は音が「聞こえる」のです。 猫の音の聞こえる範囲は高音で65kHzもしくはそれ以上と言われています。人間の20kHzに比べて11/2オクターブも上です。犬よりも上です。低音は人間とあまり変わらない30Hzです。 白い猫の聴覚障害を引き起こす蝸牛殻の退化は生後5日くらいから始まると考えられています。聴覚障害を補う為に、多分そのような猫は視覚、嗅覚、そして何よりも振動に対する反応が鋭くなるでしょう。(肉球を通して「聞く」のです。)順応性とは素晴らしいものですね! FAQ 「よくある質問」 ブルーアイ、ゴールドアイ、オッドアイといった目色の違いと聴覚障害は関係ありますか? 統計的には割合の差はあるようですが、目色と聴覚障害を直接関連づける遺伝学的証拠はありません。 頭に色の斑点の付いた子猫は全て聞こえますか? これも統計上そういう傾向があると言うだけのことで、全て斑点の付いた子が聞こえるとは限りません。 頭の斑点は消えますか? 斑点の大きさにもよりますが、たいてい3〜18ヶ月までには消えます。 白い猫は全て聴覚障害を持っていますか? いいえ、これは確率の問題で、全ての白猫が聞こえなくなるわけではありません。聞こえる白猫も多くいます。 耳が聞こえないことで猫は苦しみますか? 外は車や危険が多いですが、完全室内飼いで危険から守られていれば幸福な生活を送ることが出来ます。 耳の聞こえない猫は他の猫や動物と仲良くできますか? 多くの場合気性がおっとりしている傾向があるので他の動物ともうまくやって行けるようです。 耳の聞こえない猫の気を引くことは難しいですか? いいえ、振動や空気の流れに敏感なので容易に辺りの様子を伺うことが出来るので、音以外の方法で気を引くことが出来ます。 |
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リスブランで産まれた白猫の聴覚の記録
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